KEEP CALM AND FISH ON
これはイギリス政府が第二次世界大戦の初期に、国民の士気を高める目的で作成した宣伝ポスターのKEEP CALM AND CARRY ON(冷静に、戦い続けよ)のパロディーで、Tシャツなどのデザインでよく使われているようだ。
しかし魚釣りの最中に冷静で居続けるのは難しく、気がつくとセカセカとロッドを振り回し河原の石につまずいて転びそうになっている自分がいる。こんなとき僕はチッと舌打ちをした後に大きく深呼吸をして平静を取り戻そうとするのだが、しばらくするとまた同じことを繰り返している。
そしてそのセカセカ気分はキャッチした魚の写真を撮ろうとしている時にも僕をドタバタとさせているのだ。
先日の京都のイベントで「C&R調査と報告会」という調査会に参加した際、報告会の資料を作るため、実際にそこで釣れた魚の写真を撮影をした。
運がいいというか釣った人の実力というべきか、27cm程あるとても美しいアマゴが釣れた。報告会の為の写真を撮ったのは釣った本人ではなく他のメンバーだが、その撮影風景をやや後から観ていた僕は、撮影者に催眠術でもかけられたかのように、アマゴが見事なヒレをぴんと張り実におとなしくしていたことに驚いた。
僕は手際よくアマゴを撮影している催眠術師のような彼に、自分が魚の写真を撮ろうと思うと、いつも魚が暴れて大変だというような事を言ったら、それは撮影者がバタバタしているからだと言われた。ちょっと目から鱗が落ちたような気がして、次の機会に試してみたくなった。
その機会はこの連休中に早くもやって来た。
これまでの僕は、魚を早くリリースしなければと思うあまりとても急いでいたが、今回はまず自分自身を落ち着かせ、適当に水が流れるちょうど良さそうな撮影場所を捜し、ヤマメの呼吸が落ち着くのを待った。僕は濡れた手で艶やかなヤマメの体に触れてみた。そして1枚2枚、さらに近づいてもう1度シッターを切った。ヤマメはネットの中で大人しく撮影が終了するのを待っているかのようだった。
魚の表情からその気持ちを察することは難しい。魚は体が半分程しか水に浸かっていない場所でただ苦しくて大人しくなっているだけかもしれない。
KEEP CALM AND RELEASE FASTER
そう思いながらも美しい魚に出逢えた感動や歓びを誰かと共有したい、または自分の釣果を自慢したいとか、理由は色々あると思うがたぶんこれからも釣った魚を写真に残したいと思う時はあるのだろうと思う。