村田久さんの新書と「イワナの夏」

村田久さんの新刊「イーハトーブ山学校」が発売されているのを知って早速注文した。

村田さんの本に初めて出会ったのは二十数年前になるが、たしか新宿の紀伊国屋書店だったか? 偶然見つけた「底なし淵」を読んだのが最初だった。
当時の僕は山釣りの魅力に取り憑かれ始めで、職場までの行き帰りに本屋をのぞいては、How to本や、釣り場のガイドブック、また春先になると釣りコーナーに並ぶ渓流釣りのムック本などを買って読んでは、深山幽谷の世界に憧れ思いを馳せていた。
そんな当時の僕に「底なし淵」はまさにドンピシャだったのである。以来村田さんの本はもちろんのこと、決して読書好きとは言えない僕が数々のエッセイ本などを買って読むようになり、日本のものだけでなく外国人が書いたフライフィッシングの本や、「釣魚大全(立松和平訳)」までも読むようになった。

数々のエッセイを読んでいくと、自分の好みというものがわかってくる。
まず釣り自慢のような話はそれほど面白くないし、あまりにもロマンチック過ぎる空想の世界のような内容も頭に入ってこない。その点、村田さんの釣りにまつわるお話は、釣れたり釣れなかったらりするところが良いし、何より人との繋がりの話が面白い。昔はマタギだったおじいさん、無愛想だけど優しいおばあさん、真っ黒に陽焼けした夏の子供達。とにかく登場人物と村田さんの世界に引き込まれてしまうのである。今回の本もきっと僕にキラキラと輝く東北の山里を見せてくれるに違いない。

村田さんの著書は全て読んでいる(多分?)僕だが、実は湯川豊さんの名著「イワナの夏」も大好きなことを言わずにはいられない。
初版は古く1987年に朔風社より刊行されているが、ロマンチック過ぎない最高にロマンチックなエッセイ本。
~イワナのもっとも堅固な隠れ家は、「昔」の中である。私に釣られるはずの幾千のイワナは、どういうわけか知らないけれども、幽谷の滝壺の奥深くではなく、みな「昔」の中へ逃げ込んでしまうのだ。~
こんな冒頭の文章で始まる「イワナの夏」はもちろん、他にも「逝く夏」「ヨセミテ行き」などなど。そして「渓流乞食」これには参った。僕の人生観を少し変えてしまった著作である。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です